アメリカの401(k)プランのレコードキーピング費用は、日本の企業型DCと大きく異なる点があります。費用水準にはプラン規模や事業者による幅があり、課金方式も複数存在します。以下では、その代表的な形態を整理します。
一般的な課金体系と水準
1. 加入者一人あたり定額制(per-participant fee)
- 小規模プラン(100人未満):年間50~150ドル/人
- 中規模プラン(100~1,000人程度):年間30~80ドル/人
- 大規模プラン(1,000人超):年間10~40ドル/人
※多くの調査で「年間20~60ドル/人」が中央値とされています。
2. 資産残高ベース(asset-based fee)
- 小規模プラン:0.08%~0.15%
- 中規模プラン:0.04%~0.10%
- 大規模プラン:0.02%~0.05%
3. ハイブリッド型(定額+残高比例)
例:月額1~12ドル/人 + 残高の0.03~0.05%
費用負担者の違い
日本ではレコードキーピング費用は事業主負担が一般的です。一方、アメリカでは加入者負担が主流(約7~8割のプラン)で、口座残高から直接控除したり、信託報酬に上乗せする形を取ります。ただし、大企業では事業主が一部または全額を負担するケースも多いです。
レコードキーピング費用以外の運営コスト
401(k)プランには、レコードキーピング費用以外にも多様なコストが存在します。
- 日常的な運営管理・コンプライアンス費
加入手続き、差別禁止テスト実施、フォーム5500提出、SPD/SAR送付など。
水準:年間50〜100ドル/人(主に事業主負担) - 加入者コミュニケーション・教育費
セミナー、アプリ、ガイド資料作成など。
水準:年間20〜50ドル/人(通常は事業主負担) - カストディアン/トラスト手数料
資産保全のための費用。
水準:10〜20ドル/人 または 0.02〜0.05%(多くは加入者負担) - 資産運用報酬(信託報酬)
- インデックスファンド:0.03%〜0.10%
- ターゲットデートファンド:0.20%〜0.60%
- アクティブファンド:0.50%〜1.00%
- コンサルティング/フィデューシャリー・アドバイザー費
資産運用方針の策定・モニタリングの支援。
水準:残高の0.05%〜0.20%(多くは加入者負担) - プラン監査費用
加入者100名超プランは監査義務あり。
水準:年間7,000〜15,000ドル(事業主負担) - ERISA関連法律顧問費
プランドキュメント作成・改訂、訴訟対応など。
事業主負担 - フィデリティボンド保険料
背任行為リスクに備えた保険。
水準:資産の0.01%程度(事業主負担)
→ まとめ:運営管理費用は事業主負担が多く、資産関連費用は加入者負担となるのが一般的です。
レベニュー・シェアリング(Revenue Sharing)
アメリカには、投資信託の運用会社が運用報酬の一部をレコードキーピング会社に還元する仕組みがあります(12b-1 fee)。日本の投信における販売会社手数料に近いものです。
これにより、
- レコードキーピング会社:手数料を低く提示できる
- 事業主:負担軽減が可能
というメリットがありますが、実質的には加入者資産から差し引かれるため、加入者負担につながります。結果として、利益相反が発生し、受託者責任をめぐる訴訟が多発しました。
補足:12b-1 feeとは?
1940年投資信託法(Investment Company Act of 1940)Rule 12b-1に基づく投資信託の手数料の一種で、運用資産から継続的に控除される。主に①販売関連費用(広告宣伝や販売会社〔ブローカー・金融機関〕への報酬)、②口座管理や投資家向けサービス費用(資料作成・送付、問い合わせ対応、口座維持コスト)を賄う目的で徴収される。このフィーを財源として、運用会社からレコードキーピング会社に支払いが行われるほか、事業主、ブローカー、アドバイザーに支払われる場合もある。
手数料開示規制の導入と課題
2012年、米国労働省は手数料開示規制を導入し、レコードキーピング会社にすべての費用(レベニュー・シェアリングを含む)の明示を義務づけました。これにより透明性は大きく向上し、低コストファンドが選ばれやすくなりました。
ただし現在も課題は残ります。
- 費用体系が依然として複雑で、すべての加入者・事業主が完全に理解しているとは限らない
- レコードキーピング会社が高コスト商品を優遇する潜在的リスクは残存
まとめ
401(k)プランの費用構造は、日本に比べて複雑で多層的です。事業主・加入者の双方が負担する仕組みであり、費用の透明性と利益相反の管理が今後も大きなテーマであり続けています。
参考資料
- BrightScope/401(k) Averages Book
- Plan Sponsors Council of America(PSCA)
- Vanguard・Fidelity 各社公開資料
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