米国401(k)プランでプライベート・エクイティを投資対象とすることの是非が争われた裁判

コンプライアンス

Anderson vs. Intel Corporation 投資委員会(2019年)

2025年6月にトランプ大統領は、401(k)プランをはじめとする確定拠出年金(DC)において、プライベート・エクイティ(PE)などの代替資産による運用を促進することを目的とした大統領令に署名しました。PEを運用対象に加えるか否かは、事業主にとって受託者責任が問われる判断になります。当コラムでは、この論争の発端となった訴訟を紹介します。


背景

2019年、Intelの元従業員が、Intelの401(k)プラン等にプライベート・エクイティ(PE)とヘッジファンドが含まれていることは、 受託者責任(fiduciary duty)違反に当たるとしてIntel社を提訴しました。彼らの主張ポイントは以下の2つです。

  • 注意義務違反: Intel社のターゲット・デート・ファンド(TDF)はPE等の非公開資産を投資対象に含んでいる。 この商品は伝統的な運用商品と比べて「コスト(信託報酬)が高く、流動性が低く、投資内容が不透明である」として不適切なものである。
  • 忠実義務違反: Intel社が関連会社のIntel Capitalと関係があるPEにプラン資金を使っていたのでは、という利益相反の可能性がある。

判決

「Intelプランの受託者がPEやヘッジファンドを採用しても、それ自体が受託者責任違反とは言えない」として原告の訴えは棄却されました。 その理由は以下の通りです。

  • 注意義務違反について:「原告は適切なベンチマーク(meaningful benchmark)と比較しておらず、訴えは具体性に欠ける」 「判断の正しさは、結果ではなくプロセスの適切さで評価される。単に他の投資よりパフォーマンスが悪い、手数料が高いという事後的な比較では不十分である」
  • 忠実義務違反について:「単なる利益相反の可能性ではなく、実際の利益相反があるという合理的主張が必要である」

今後への影響

慎重な意思決定プロセスと情報開示があれば、代替資産の組入れは法的に許容されうるという判断が下され、 代替資産に対する今後の指針が提供されたことになります。

とはいえ、当事案は先例にはなるものの、将来の訴訟を完全に防ぐものではなく、事業主は依然として高いリスク (高費用・流動性・複雑性)をしっかり説明し、モニタリングしていく責任があることにかわりはないとの指摘がなされています。

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