DCの商品除外要件を見直す―加入者同意からガバナンス責任へ

日本の確定拠出年金

確定拠出年金(DC)では、運用商品のラインアップから商品を除外する場合、その商品を選択している加入者等の3分の2以上の同意が必要とされている。

以前は全員同意が必要であったが、それでは商品入れ替えが事実上不可能に近いことから、2016年改正(2018年施行)で3分の2以上へと緩和された。しかし、そもそも商品ラインアップの変更に、なぜこれほど重い加入者同意を求める必要があるのだろうか。

商品除外より運営管理機関変更の方が要件は軽い

筆者は制度創設後の比較的早い時期から、企業年金のコンサルタントとして事業主の相談に応じていたが、この同意要件の不整合を感じていた。

商品を除外するには全員同意が必要である一方、運営管理機関そのものの変更は過半数労働組合または過半数代表者の同意で可能であるという点だ。商品選定に大きな影響を持つ運営管理機関そのものを変更する方が、個別商品を除外するより手続きが軽いという逆転現象が存在するのである。

そのため、商品ラインアップを本当に変更したいという事業主には、運営管理機関そのものの変更を検討した方が現実的であると助言していた。

日本の労働・福利厚生法制では「同意」が一律の原則ではない

日本の労働・福利厚生法制全体を見ておきたい。

日本では、すべての制度変更で一律に本人同意や労使合意を求めているわけではない。変更の内容や権利への影響に応じて、本人同意、労使協定、過半数代表者の意見聴取、代表機関による議決、変更内容の合理性の審査など、異なる仕組みが使い分けられている。

たとえば就業規則を変更する場合、過半数労働組合または過半数代表者の意見を聴く必要はあるが、その同意まで必要なわけではない。不利益変更であっても、変更の必要性や労働者が受ける不利益の程度、内容の相当性、労使交渉の状況などを踏まえて合理性が認められれば、個々の労働者の同意なしに効力を持つ場合がある。

健康保険組合の規約変更も、被保険者一人一人の同意によるのではなく、事業主側・被保険者側の代表から構成される組合会の議決によって行われる。

一方、確定給付企業年金(DB)の給付減額では、加入者の将来給付を減額する場合にも、受給権者等の既発生給付を減額する場合にも、原則として3分の2以上の同意が求められる。

したがって、「3分の2」という要件そのものが異例なのではない。年金給付そのものを切り下げるような変更に強い同意要件を置くことには合理性がある。問題は、それとDCの商品除外を同じように扱う必要があるかである。

商品除外は誰の責任で判断すべきか

この問題は、商品入れ替えに伴う実務負担の問題にとどまらない。制度運営者のガバナンス責任をどのように考えるかという、より本質的な問題を含んでいる。

DCでは、事業主や運営管理機関に対し、運用商品の選定やモニタリングを適切に行うことが求められている。制度全体としては、専門的な判断とガバナンスを強化する方向に進んできた。

ところが商品除外となると、専門的な判断だけでは足りず、最終的には加入者の同意が必要になる。高コストになった商品、競争力を失った商品、より適切な代替商品が登場した場合など、本来は継続的なモニタリングの結果として入れ替えを判断すべき場面であっても、加入者の同意が除外の要件となる。

もちろん、加入者が自ら選択して保有している資産を、本人の意思に反して売却するのであれば、慎重な手続きが必要である。しかし、「本人が選択した商品の運用結果について本人が責任を負うこと」と、「制度運営者が適切な商品ラインアップを用意する責任」は別の問題である。

加入者の自己責任は、適切に用意された選択肢の中からどの商品を選ぶかという部分にある。一方、どの商品をラインアップに載せ、どの商品を除外するかは、本来、制度運営側のガバナンスの問題である。

米国では制度運営者が判断する

ここで、米国ではDCの商品入れ替えがどのように行われているかを紹介したい。

米国では、事業主が設置する投資委員会などが、運用商品のパフォーマンス、手数料、運用体制、投資スタイルなどを継続的にモニタリングしている。四半期や半年ごとにレビューし、問題のある商品をウォッチリストに載せて経過を見ることも多い。

そのうえで、資産運用方針や商品選定基準に照らして適切でないと判断すれば、受託者として商品を除外・変更する。加入者の多数決によって判断するわけではない。

加入者への連絡は、たとえば翌年1月から商品を入れ替えるのであれば、前年10月頃から事前周知を始め、11~12月にかけて、変更内容、除外日、後継商品、保有資産の取扱いなどを、電子メール、運営管理機関(レコードキーパー)のウェブサイト、社内広報、書面などで繰り返し知らせる。

加入者には、変更日までに自ら別の商品へ資産を移す機会が与えられるが、何もしなかった加入者の資産については、あらかじめ定めた後継商品へ振り替える。これをマッピングと呼ぶ。

商品入れ替え自体に「何年に一度」という一定の周期があるわけではなく、商品モニタリングが恒常的なガバナンス業務として行われ、必要が生じれば商品を変更するという仕組みである。逆に、こうしたモニタリングを怠れば受託者責任を問われ、訴訟の対象となることもある。

米国以外でも、DCが普及している主要国の商品除外手続きをまとめると、以下のようになる。

DC商品の除外手続き:主要国比較

国商品の追加・除外を決める主体加入者の事前同意
日本事業主・運営管理機関等除外商品保有者の3分の2以上
米国プラン受託者・投資委員会等原則不要
英国Trustee/年金制度の governing body原則不要
豪州Superannuation trustee(RSE licensee)原則不要
カナダ事業主または年金制度の管理主体原則不要
香港MPF trustee等の制度運営主体原則不要

※制度形態、契約形態、変更内容により個別の手続きは異なる。代表的なDC・企業年金制度について単純化した比較である。

主要国では、商品除外を加入者の多数決に委ねるのではなく、制度運営主体に判断権限を持たせ、その代わりにモニタリング、通知、説明責任などを求める考え方が基本となっている。「加入者の同意」ではなく「決定する側の責任」によって加入者保護を図る仕組みがとられているわけである。

全員同意から3分の2同意への経緯

ここで、日本の商品除外要件がどのように形成されてきたかも確認しておきたい。

制度創設当初、商品除外には、その商品を選択している加入者等の全員同意が必要であった。しかし、全員同意では商品除外が事実上困難になることは、早くから認識されていた。

2007年には、全員同意に加えて、過半数労働組合または過半数代表者の同意によっても商品を除外できるようにする確定拠出年金法の改正案が、政府提出法案に盛り込まれた。この改正を含む法案は成立しなかったが、商品除外要件の見直しという課題自体は、その後も残った。

その後も見直し議論は続き、2014年には、単純に労使合意だけで商品を除外するのではなく、労使間で合意したうえで加入者に十分な情報提供と周知を行い、多数の異議がない場合に除外を認めるという案も検討された。

つまり、当時の議論では、全員同意を維持するのか、労使合意に置き換えるのか、あるいは労使合意と加入者の意思確認を組み合わせるのか、複数の選択肢が検討されていた。

最終的に2015年提出の法案では、労使合意方式ではなく、その商品を選択している加入者等の3分の2以上の同意という仕組みが採用され、2016年に成立した。

公開資料を見る限り、「なぜ過半数ではなく3分の2なのか」という明確な理論的根拠が詳しく示されているわけではない。むしろ、「全員同意では商品入れ替えができない。一方で、本人の運用資産について労使合意だけで処理することにも慎重である」という二つの考え方の間で、個人同意を残しつつ要件を緩和した結果と見ることができる。

閉鎖型の商品除外

その後、制度の前提も変わった。現在では、商品をラインアップから除外しても、加入者がすでに保有している資産を売却せず、新規購入だけを停止する方法が認められている。いわゆる閉鎖型の商品除外である。

この場合は、本人が保有する資産を本人の意思に反して売却する問題は生じない。DBの給付減額は、将来分であっても年金給付そのものを切り下げる。一方、DCでの閉鎖型の商品除外は、給付額や既存資産を直接減少させるものではなく、商品ラインアップを管理する行為である。

そうであれば、少なくとも閉鎖型の商品除外についてまで、加入者等の3分の2以上の同意を求め続ける必要があるのかは再検討してよい。

ここで考えるべきなのは、「3分の2を過半数に下げればよいか」という数字の問題ではない。加入者保護を本人から同意を取ることで実現するのか、それとも、専門的な判断を制度運営者に委ね、その代わりに適切なガバナンス責任を負わせることで実現するのか、という問題である。

同意からガバナンスへ

後者を重視するのであれば、商品ラインアップの管理については、制度運営者が専門的な判断を行い、その判断過程について責任を負う仕組みに近づける必要がある。

事業主や運営管理機関に忠実義務を課し、商品ラインナップの適切な管理に責任を求める一方で、商品除外については加入者の同意に強く依存する仕組みを残すのは、制度全体としての整合性が問われる。

加入者の一定割合が同意したという事実ではなく、なぜその商品を除外すると判断したのか、代替商品は適切か、加入者に十分な説明と選択機会を与えたか、といった制度運営者側の判断過程を問う方が、ガバナンスの考え方としては本筋ではなかろうか。

加入者保護を「同意」で担保する制度から、制度運営者の専門的判断とガバナンス責任で担保する制度へ。商品除外を円滑にすることは、DCガバナンスを実効あるものにするためにも必要であろう。

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