投資教育と個別助言の間を埋める―英国「ターゲテッド・サポート」

投資助言

2026年7月に政府が策定した「成長投資を促進するための金融戦略―資産運用立国のアップグレード―」では、確定拠出年金(DC)の運営管理機関による投資助言の解禁が検討課題に挙げられた。インフレが進んでも元本確保型商品で運用を続けている人などに行動変容を促す狙いがある。

一般的な情報提供や投資教育だけでは、加入者の行動を変えるのは難しい。「あなたの場合は、こうした方がよい」と具体的に踏み込むことで、うまく運用できるようになる加入者は多いだろう。一方で、投資助言を認める際には、利益相反をどう防ぐのか、問題が生じた場合に誰が責任を負うのかといった問題を整理しなければならない。

これまで身近なサービスではなかった個別助言が、日本のDCでどこまで利用されるようになるのかは未知数でもある。制度を作っても利用者が限られるようでは、「仏作って魂入れず」になりかねない。

この問題を考えるうえで参考になるのが、英国で2026年4月6日に始まったターゲテッド・サポート(Targeted Support)という新しい仕組みである。制度開始からまだ半年程度で、普及状況を評価するには早いが、その発想は示唆に富むため紹介したい。

(注)英国のターゲテッド・サポートは企業が実施する職域DCだけを対象とするものではない。SIPP(Self-Invested Personal Pension)と呼ばれる個人年金や、ISA(NISAのモデルになった税優遇付き個人口座)、一般の投資口座なども対象となる。SIPPは加入者が自分で運用商品を選ぶ個人年金の一種で、日本のiDeCoに似ている。ただし、個別株式やETFなども幅広く選択できるほか、給付の仕組みも異なる。

アドバイス・ギャップの存在

英国では、以前から投資助言サービスが提供されてきた。投資や年金についての一般的な説明を超えて、個人の資産、収入、家族構成、目的、リスク許容度などの詳しい情報に基づき、その人に適した提案を行うのが個別助言である。

こうした助言を提供する金融機関等は、個人の適合性を確認する責任を負うが、情報収集や分析にも相応のコストがかかることから、投資助言は一般に有償で提供されてきた。そのため、十分な資産を持つ人は個別助言を利用できる一方、多くの人は一般的な情報提供をもとに、最終的な判断を自分で行っていた。

こうした状況は「Advice Gap(アドバイス・ギャップ)」と呼ばれ、英国の金融サービスを監督するFinancial Conduct Authority(FCA、金融行為監督機構)が問題視してきた。FCAによると、規制対象となる金融アドバイスを利用する人は英国成人の1割未満にとどまり、十分な助言や情報提供を受けられていない人は約2,300万人に上ると推計されていた。

こうした事態に対応するため、「一般的な情報提供」と「個人ごとの投資助言」の間に新たに設けられた仕組みが、ターゲテッド・サポートである。

似た状況の顧客に共通の提案を届ける

ターゲテッド・サポートは、共通する事情や課題を抱える顧客を一定の集団(セグメント)に分け、それぞれのセグメントに対して、あらかじめ用意した提案(ready-made suggestion)を行うものである。

たとえば、次のようなセグメントが考えられる。

  • 私的年金への拠出率が法定最低水準にとどまり、退職後の資産形成が不足すると見込まれる人
  • 長期投資が可能なのに、資産の大部分を現金で保有している人
  • 退職が近づいているが、年金資産をどのように受け取るか決めていない人

こうした顧客に対して、拠出率の引上げとそれに伴う年金商品への追加投資を勧めたり、現金の一部を具体的な投資商品に移すことを提案したりする。また、退職後の資産の受取方法について、顧客群の特徴に応じた具体的な選択肢を提案することも考えられる。顧客に行動を促す踏み込んだ提案をしている点が、単なる教育とは異なる。

一方、個別助言とも異なる。個別助言では、顧客の事情を幅広く深く調査したうえで提案の適合性を判断するのに対し、ターゲテッド・サポートでは、共通する課題や特徴を持つ顧客群に適した提案をあらかじめ設計し、該当する顧客に届ける。顧客一人ひとりの事情を網羅的に調査するのではなく、共通する課題を持つ多数の人に具体的な提案を届け、行動を促すことを目的としている。

共通課題は集団へ、個別事情は個別助言へ

「若いのに資産の大半を現金で保有している」という課題を持つ人たちに、最初から各人の家計や人生設計を詳しく分析する必要はない。一定の集団に共通する提案をまず届け、もし個別事情によって判断が大きく変わる人には、必要に応じて本格的な個別助言を案内する方が、限られた助言資源を有効に使えると言える。

共通する課題にはターゲテッド・サポートで広く対応し、個別事情の強い人は本格的な助言につなぐ、という二段構えの仕組みが今回の英国の発想なのである。

もちろん、集団に対する提案であれば、顧客の事情を一切確認しなくてよいわけではない。たとえば、現金を多く保有している人でも、近い将来に住宅購入を予定していたり、緊急時の予備資金が不足していたりすれば、必ずしも投資を勧めることが適切とは限らない。FCAの規則では、金融機関はセグメントに該当する条件だけでなく、提案が不適切になる可能性のある「除外条件」も設定しなければならない。また、把握している顧客情報から提案がその顧客に適さないと判断される場合には、提案を行ってはならない。

セグメントの設計は金融機関の責任

セグメントは金融機関が自ら設計する。通常の個別助言のように顧客ごとの事情を詳しく調べる必要はないが、その代わり、どのような顧客をグループ化し、どのような提案を行うのが妥当かについて、金融機関が責任を負う。

セグメントは、提案の適切性を判断できる程度には細かく設定しなければならない一方、顧客の事情を網羅的に調査するほど細分化することも想定されていない。このバランスが制度設計上のポイントになるとされる。

自社商品の提案は認められる。その代わり、対象商品の範囲の明示、提案の適切性の確保、第三者からの手数料受領の原則禁止で利益相反に対処する点も特徴である。

AIとの相性もよい

ターゲテッド・サポートは、AIとの相性もよいと考えられる。AIに個人に最適な投資判断を一から任せるとなれば、情報の完全性、説明可能性、誤判断時の責任など、難しい問題が増える。

一方、ターゲテッド・サポートでは、金融機関等があらかじめ顧客群と提案内容を設計する。その枠組みの中でAIを活用すれば、保有する顧客データをもとに該当するセグメントを判定したり、適切なタイミングで提案を届けたりすることができる。さらに、提案を受けた顧客の反応を分析し、案内方法や利用者の操作手順を改善することにも活用の余地がある。

もちろん、AIを使えば金融機関の責任が軽くなるわけではなく、セグメントの設計や提案内容の適切性について、最終的な責任を負うのは金融機関である。

2026年10月時点の状況

ターゲテッド・サポートは、FCAから認可を受けた金融機関等が提供できる。制度開始から約半年が経過し、生命保険会社、資産運用会社、銀行などで認可取得やサービス提供に向けた取り組みが進んでいる。

各社が公表している主な取り組みは表1のとおりである。

表1 英国ターゲテッド・サポートの主な事業者と取り組み

企業主な対象・サービス内容
Royal London(生保・年金)ISA利用者向けに投資の適否を確認し、セグメントに応じた投資先を無料で提案。年金向けも展開予定
Quilter(資産運用・助言)短い質問で投資姿勢やリスクに対する考え方を確認し、該当するセグメントに適した投資先を案内
Vanguard(資産運用)主に投資初心者を対象。投資目的、期間、リスク姿勢などからISAやSIPPを含めて提案
Zopa Bank(銀行)質問への回答を通じて顧客の状況を把握し、該当する顧客群に適した投資商品を提案
Monzo(銀行)現金貯蓄を持ち、投資を検討しようとしている顧客を対象に働きかけ
Legal & General(生保・年金)年金資産の全額を現金で運用している職域年金加入者を対象
Aviva(生保・年金)年金顧客の状況に応じ、具体的な行動を促す提案を提供
Barclays(銀行)投資初心者などを対象に、投資判断を支援するサービスを展開

注:2026年10月時点の公表情報に基づく整理

セグメントの設定

各金融機関がどのようなセグメントを設定しているのかは、現時点ではあまり公になっていない。

Legal & Generalは、「年金資産をすべて現金で運用している職域年金加入者」という、問題点が比較的明瞭なセグメントを設定してサービスを開始している。

Royal Londonは、ISAを対象にしている。スマートフォンアプリでISAを申し込む際に、利用者に「自分で商品を選ぶ」か「投資の支援を受ける」かを選択させ、支援希望者には、借入金の返済状況や緊急時の予備資金の保有などについて質問し、そもそも投資を始めてよいか否かを確認する。そのうえで、投資期間やリスクに対する考え方を聞いてセグメントに振り分け、あらかじめ用意した投資先を提案する。具体的なセグメント数は公表していない。

金融機関が保有する情報は異なるため、セグメントの設定方法は一様ではないようだ。また、現段階では、加入者全員を精緻に類型化するというより、改善余地のある顧客群をまず拾い上げるという形でサービスが始まっているようである。

費用と利用状況

現在公表されているサービスでは、顧客に追加料金を求めないものが目立つ。FCAの規則では有料提供も認められているが、無料の場合には、費用を金融機関の他の事業部門やグループ会社が負担することも可能とされている。

ターゲテッド・サポートは、従来の個別助言を単に低価格化したものというよりは、顧客ごとの情報収集や適合性判断の負担を軽くすることで、多数の人に低コストで提供できる仕組みとして捉える方がよいかもしれない。

FCAは、今後10年間に少なくとも1,800万人がターゲテッド・サポートの提供対象となる可能性があると見積もっている。ただし、これは実際の利用者数の予測ではなく、現時点で利用状況を示す包括的なデータもない。なお、Royal Londonは、2026年上半期に約5,000人がISA向けのターゲテッド・サポートを利用し、84%の利用者が投資への自信が高まったと回答したと発表している。

日本と異なる英国DC

ここで、ターゲテッド・サポートのセグメント設定を理解するうえで、英国の職域DCについて、日本の企業型DCとは異なる特徴を簡単に紹介しておきたい。

英国では2012年から職域年金への自動加入制度が段階的に導入された。この制度の特徴は、従来、企業年金を実施していなかった企業にも、対象となる従業員を適格な年金制度に加入させ、事業主掛金を拠出する義務を課したことである。企業は自社の年金制度を利用するほか、制度がなければ、NEST(自動加入制度の受け皿として設立された非営利のDC制度)などの外部の年金制度を利用することができる。DCの場合、原則として一定の所得帯に該当する賃金の8%以上が拠出され、事業主が少なくとも3%、残りは加入者の拠出と税制優遇で賄われる。ただし、従業員はオプトアウト(加入後の脱退)を選択することもでき、その場合は事業主拠出も受けられなくなる。

運用商品についても、加入者が自ら選択しなければ、デフォルトファンドで運用される。英国では、退職までの期間に応じて資産配分を変更する運用が主流であり、一つのファンド内で資産配分を変更するターゲット・デート・ファンドや、複数のファンドを組み合わせて配分を変更するライフスタイル型などが採用されている。

このように、加入から運用まで自動化が進んでいる英国では、加入者が運用商品を選ばなくても資産形成を続けられる。その一方で、法定最低水準の掛金で十分な老後資金を準備できるとは限らない。「今の掛金で十分なのか」という問題は、自動加入制度だけでは解決できないわけである。

もう一つの課題が、退職後の資産の使い方である。英国では、かつて終身年金の購入が基本的な給付受取方法となっていたが、2011年には75歳までに終身年金を購入する実質的な義務が撤廃され、2015年のPension Freedomsによって、一括引出しや、運用を続けながら必要な額を取り崩す方法など、選択の自由がさらに広がった。

その分、加入者自身が判断しなければならないことも増えた。資産を早く使いすぎれば長生きリスクに対応できず、反対に慎重になりすぎれば、十分に活用しないまま資産を残すことにもなりかねない。

こうした背景を踏まえると、ターゲテッド・サポートで、老後資金の積立てが不足している人や、給付の受取方法を決めていない人などが対象として想定されていることも理解しやすい。

日本への示唆

日本でもDCの運営管理機関は、加入者の年齢、拠出額、運用内容などを把握している。セグメントを設定し、働きかけの対象を見つけるデータの土台はある。たとえば、長期間にわたって資産の大部分を元本確保型商品で運用している加入者や、退職が近づいているのに受取方法を検討していない加入者など、共通する課題を持つ集団を見つけることは可能だろう。

これまでは、こうした加入者に一般的な投資教育や情報提供を行い、その先の判断は本人に委ねるか、より具体的な提案を行うために個別助言の仕組みを整備するか、という考え方になりがちだった。

英国のターゲテッド・サポートは、その中間に別の選択肢があることを示している。

多数の人に共通する問題については、あらかじめ設計した提案を届ける。個別事情によって答えが大きく変わる人には、本格的な個別助言を提供する。その際、セグメントの設計や提案内容の妥当性については金融機関が責任を負い、利益相反についても規律する。

日本で同様の制度を導入するには、投資助言に関する法規制やDC運営管理機関の役割との関係など、検討すべき課題は多い。しかし、投資教育だけでは十分な行動変容が期待できず、かといってすべての加入者に個別助言を提供することも現実的ではないとすれば、その間を埋める方法を考える必要がある。

英国の取り組みは、企業型DCに限らず、iDeCoやNISAなども含め、幅広い個人の資産形成を支援する仕組みを考えるうえで、参考になるのではないだろうか。


主な参考資料

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